空軍技術研究所

〜その10〜                                           


日記 皇紀2664年5月12日 相馬馬助

何やら忙しく間が空いてしまった。
いわゆるトライアンドエラーの日々だ。
今のところはできることも限られているので主に電算機を用いて構造計算だ。
無垢の板材、ハニカム構造材、炭素繊維、それぞれ一長一短がある。
これらを複合化させるにも順番や肉厚、形状などをいちいち詰めていくわけだ。
炭素繊維は軽く強靭だが電探波をほぼ透過してしまう。とするとこれで機体表面を覆うと凹凸のある内部構造まで電探派を反射して敵に容易に発見されてしまう。
ハニカム構造材は中空成形されているので軽いが弱い。ただその中空部分が潰れて衝撃を吸収し内部へのダメージを軽減できる。
無垢材はこの中では一番重いが強靭だ。機体最外面はもちろん効果的に挟み込んで内部へのダメージをカットする。
そしてどうやら外面に貼りつける薄膜状電探も緋緋色金でやり直すことになった。導電率もいいし攻撃を受けた時破損する確率が従来素材より低い見通しとなる。
電子機器作成班からの報告では略式ながら単機で電子戦もいけるそうだ。
電探、通信、電子支援、電子対抗、対電子対抗を秘匿高速度情報共有接続回線で司令部や僚機と接続できるように開発が進んでいるそうだ。
武装開発からも一部緋緋色金の使用を打診してきた。
次期電探透過型空対艦滑空誘導弾(制式時64型空対艦誘導弾「獅子吼」)の構造に使用して高速飛翔、被撃墜率の低下、命中率の向上、そして炸薬量の増大による破壊力の増大などを企図しているそうだ。
そうなると艦対艦誘導弾にも応用が利くな。

そして剣崎からまた桜花大将の情報が入っている。
「桜花大将麾下第一第二合同艦隊が明日未明より東鳥島所属第五第一四合同艦隊と模擬戦を開始予定。期間は25日間。結果に注目せよ」
んん?意味がわからん。
あれだけの戦力差を覆した桜花大将が同程度の陣容の模擬戦で遅れをとることがありえようか。
しかも剣崎は桜花大将のことしか連絡を寄越さない。
一体何が何が言いたいのか。

徳間君からはサンプルの進捗が伝えられている。
どうやら合金の配合率が決定しつつあるようだ。
「予定された性能を充分に達成される見込み」
よし。
そうなるといよいよ木型屋と金型屋も交えて話がしたい。
木型屋は空技研出入りの業者を使うが、鍛圧金型はこれだけ大きいものになるとノウハウがない。
親方と一緒に出張の段取もつけなければなるまいな。
また長旅だ。

機体衆の会議があり取りまとめ役として、あくまでも加藤少佐の代理としてだが、出席した。
とはいっても現場はだいたい似たような年齢や階級の人間も多く話やすい。
空技研でやってる仕事は現在以下の3つとなる。
開発機体試62甲。実はこれで一番進捗度が高い。機体外板以外では骨格のカーボンモノコック、電子装備、武装システムが高い完成度になっている。
発動機が一番遅れているかもしれない。
次に開発機体試62乙。これは超高高度電子作戦機だ。
これは高度35000mの成層圏において地球のほぼ半分ほどの区域を電子的に走査し、自機は電子的に完全隠蔽状態を維持しつつ情報収集や電子戦を行うというものだ。
想定される開戦時に衛星が破壊される可能性が高いことから、機動的に機能を補完するために計画された機体だ。
現在この担当班によると機体構想の点から航続距離と機体構造さえしっかりできていれば、主眼は電子装備になるためシステム構築が第一になるという。
そして開発機体試62丙。これは完全無人機だ。
いくつか構想が提案されている段階だ。有力なのは試62乙の護衛および搭載兵器として使用されるもの。
つまり無人であるがゆえに推進装置、制御装置、武装のみで構成されて最小限の防備が施されるのみのため小型軽量になる。
これを試62乙に搭載し、必要に応じて射出して制御するというものだ。
無人の利点は他にも多い。搭乗員の練成が不要である点、人員の犠牲がない点、開発費建造費が安価である点。
機体の機動に関して搭乗員の安全を考慮しない分無茶な動きが可能であること。
無論欠点もあり、制御システムや管制システム次第では飛ぶだけの標的になりかねない。地上攻撃時等に目標を誤認するおそれもある。

以上の「62計画機群」は空技研始まって以来の大きな計画になる。
空軍および帝国三軍で採用されるべき機体の設計試作を行い、製造業者を適切に選定し割り振る。
また先進的技術の獲得、構築に努め、将来的な軍事技術および応用される民間技術の発展に寄与する。
空技研がようやく設立の目的に向かって動き始めた。
ただひとつ気にかかるのは62計画機の乙丙2機種だが、根幹となる電算機システムが現在のところ不安がある。
構築中のMk.7武装装置の帝国版システムの中枢電算機並の性能が必要になるかもしれない。
開発中央部はこのシステムありきで、この計画を推進しているのか違うのかがどうも見えてこないし説明もない。
そのあたりが機体仕様の決定に微妙な遅れを生じさせているのだが。
これは剣崎に振ってみる必要があるか。

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