空軍技術研究所

〜その3〜                                            


日記 皇紀2664年3月21日 相馬馬助

朝八時の開門と同時に日軽金の徳間君来訪。
これだけ急ぐとはいい知らせに違いない。
「少尉!いい知らせです!」

内容はこうだった。
先日の精錬していた鉱物の採取元は、最近南鳥島近海の海底で発見された希少金属鉱脈の試掘品だそうだ。
規模は民間の使用に限定すれば約300年分相当、軍事徴用でも100年分を超えるという。
その精錬副産物より新金属が発見されたのだ。
「よく空技廠や中島に持って行かれなかったな」
優秀な機体は名や装備を変えひろく採用されるが、開発はそれぞれで行う。
軍用航空機に参入している企業は大きなところでも三菱、中島、川崎、川西、愛知、石川島、九州、渡辺とある。
発動機のみでは日産、新規に本田。素材業者や電装品、電算機から細かい部品となると数えきれない企業が参加している。
開発競争は場合によっては熾烈なものとなる。どの企業も新素材ともなればいち早く入手したい。
軽金属最大手とはいえ、専門の軍事企業を出し抜くとはなかなかやる。
「運が良かったんですよ。担当の技師がつきあいのある人間でして、一番先に私が聞いたので情報の秘匿まではしませんでしたが、試料を押さえることができたので優先権を空軍さんにまわせました」
「助かったよ、後回しにされたらこっちにくるのに二年はかかる」
「いつも良くしてくださる少尉に恩返しができてなによりです」
「良くした覚えはないがなあ」
便宜を図ったことはない、ただ見積り内容や技術水準から仕入れが日軽金からに偏っている。
価格調査や品質調査も随時行っているので癒着はない。なにより私がそういうのが好きではない。

「実はもう合金の配合試験も開始しているのです」
徳間君は資料を取り出す。
目を通して驚いた。
「これは本当なのか?」
「はい、私も驚きました。初期の手探り段階の数字ではありませんね」
「むう」
「順次銅、マグネシウム、亜鉛等との比率を調整してみますが、この少量の配合のみでここまで変質する例は珍しいですね」
「強度だけではなく耐候性、耐久性も検証してみてくれ。しかしこれは…」
「下手をすると、いや上手くすればチタンに近い強度になりますね」
「そうだなあ」
重量で鉄の3分の1、強度でアルミの3倍。
求めていた素材が手に入るかもしれない。それは私の心を非常に熱くさせた。
「ところでこの金属の名前はつけられたのか?」
「いいえまだです。ですが研究班では緋緋色金(ヒヒイロカネ)と呼んでいるようです」
「神代の金属か。大きくでたなあ。しかし待望の新発見だ、それはいいんじゃないか」
「はあ。まあもう少し内容がまとまって上の裁可が降りたらですが、少尉の御希望も伝えておきますよ」
「ああ」

「もうひとつ、これは直接関係ないのですが」
徳間君はさらに情報をくれた。
「この鉱脈は他の離島付近にも埋蔵の可能性があることと、今回の鉱脈の近海ではさらに結晶化天然瓦斯が発見されています」
「結晶化?」
「ええ、水圧で凝縮されたメタンガスで、採取には鉱石よりも繊細な技術が必要だそうで実用化には時間がかかりますが、もしこれが本格採取されれば燃料の輸入が必要なくなるほどの規模だそうです」
「それはまたすごい話だな」
「今回の神風は海中にて吹いておりますよ」
確かに。開発機体試62甲は神風を呼ぶかもしれない。
inserted by FC2 system