空軍技術研究所

〜その2〜                                            


日記 皇紀2664年3月20日 相馬馬助

ようやく寒さも緩んできた。
今日は情報部の剣崎から面白い暗号電文が届いていた。
「相馬よ、今日新しい連合艦隊提督が着任されたらしい。」
一文だったが理解した。以前三軍の開発連中で会合をやったときにさんざん自慢されたアレだ。
「少尉、これは極秘機密なんですがね」
と嬉しそうに笑うのが腹立たしかった。私でもそうなのだから空技の電算部は相当頭にきただろう。
人型電算機。
多大なる発展性と莫大な予算、経費を含むまさに次世代の花形。
詳細は機密だが、軍内ではいわば公然の秘密となっている。

東郷元帥がバルチック艦隊を打ち破り、大国ロシアとの厳しい戦いを勝ち抜いたわが帝国。
海軍、陸軍は仲こそ悪いがそれぞれが戦の主役だった。
それは現在でも連綿と受け継がれており、空軍はいわば新参の脇役なのだ。
海軍は艦載機、海軍基地航空隊を持ちその運用にかけても歴史が長い。
陸軍は基地航空隊を中心に精鋭習志野第一空挺団などの降下作戦部隊があり立体運用を得意とする。
一方の空軍は航空戦力の拡充に伴い新設されたものの、戦略爆撃が有効なうちは作戦への参加もたびたびあったが、誘導弾による防空兵器と長距離弾道弾の登場により航空機の運用が戦術レベルに留められるようになってからは防空を主任務とするようになった。
最大の部隊は無論帝都防空隊だ。
あとは領空侵犯即応部隊、基地防空隊、戦技研究隊、輸送隊、補給隊、救難隊などとなる。
任務に貴賤なし。
どれも陛下をお護りし、帝国臣民を守る大切な仕事なのだが、いかんせん予算や発言権の問題がある。
海4陸4空2あればいいほうで、実際は1あるかどうかなのだ。
先の人型電算機は連合艦隊を統括制御できるほどの性能で、陸軍でも戦場統括できるものが完成しつつあるらしい。
しかし空軍には無用と最初から断じられている。
非常に悔しい。
電算機の最たる長所は情報の共有化だ。
空軍が蚊帳の外ではもし帝都に弾道弾の飽和攻撃があったりしたらどう防ぐというのだ。

ないものねだりしても仕方がない。
空軍の電算機開発部では諜報部よりおもしろいものを手に入れて研究が進んでいるらしい。
「女神の盾」というものだ。
前大戦の後、米国にて開発が進められてきた「Mk7 武装装置」と呼ばれるもので、電探妨害や電探浸透に対しても非常に耐性のある装置らしい。
おもに新型電探を基軸としており、観測、逆探、妨害、標的認識、標的振り分け、攻撃にいたる動作を電算機によって行うことを企図して開発中らしい。
なんともはや…
聞けば人型電算機は見目麗しい少女の姿をしているそうだ。
われわれの開発する新型機が将来三軍で広く採用され、新型電探と人型電算機に情報接続し、帝国を護る「女神の盾」となったならどんなに素晴らしいことだろう。
帝国に空軍あり。
くさるわけにはいかん。

先程日軽金から連絡があり明日来訪のこと。
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