空軍技術研究所

〜その18〜                                           


日記 皇紀2664年6月8日 相馬馬助

剣崎からメールだ。
短文だった。
「件の海軍演習結果を転送する」
添付ファイルは報告書の複写のようだった。
「なんだって!?」
思わず声に出す。
先月から行われていた桜花大将参加の海軍模擬艦隊演習の内容だった。
規模、陣容ともほぼ同様の両陣営の戦闘結果は被害内容もほぼ同様というまったくの互角だった。
どういうことだ。
人型電算機の指揮能力は既存兵力に対して決定的な付加価値を与えるものではなかったのか?
それとも作戦立案時の大型電算機の問題と同じように、大きな穴があるということなのか?
これでは…
その時軽快な電子音と共に新着メールが届いた。
またもや剣崎だ。開く。
「桜花大将指揮の第一、第二合同艦隊に対し、第五、第一四合同艦隊の指揮を執ったのは、先日着任した海軍二号人型電算機『橘花』中将閣下也」
なるほど。
海軍は既に二号機も稼働状態にしていたのか。
人型に対抗しうるものは人型をおいて他になし。
そういうことなのか。
中央電算機の圧倒的な処理能力と人型ならではの柔軟な指揮能力、空軍で検討中の女神の盾では単一でこれを凌駕することはできないだろう。
しかし海軍や陸軍とケンカするわけではない。
空軍で人型が欲しいといってもないものねだりに過ぎない。
もっと偉い立場の人間が空軍全体と立案される作戦を検討し、遂行能力を高めるうえで必要と判断されれば導入されるだろう。
あったらある、ないならないで我々は対応していくしかない。
剣崎がこう宣伝のように言ってくるということは上でもなにかの動きがあるのだろう。

おや?後半のメールは続きがある。
「来週に海軍からの依頼で付き合ってもらいたい案件がある。技術士官の立場で同行して貰いたい。ついては14日に一旦府中まで来てくれ。加藤少佐より正式な命令書が発行される」
命令書?任務か?剣崎が動くってことは内諜関係か?おいおい穏やかじゃないぞ?
あわてて返信する。
「情報部の任務なのか?」
すぐさま返事。
「まあそうだ。危険はない」
危険て。

夕方加藤少佐から命令書がメールで来た。
メールというあたりが緊迫感が無い。
イメージでいうと角型3号くらいの封筒に「機密」と判が押されたものがいかつい情報士官から手渡されそうだ。
「空軍技術研究所 相馬馬助少尉」
さすがに暗号化メールで来ている。
「海軍より空軍の技術士官で適当な人材を派遣して欲しいとの依頼があり、検討した結果貴官が選任された。任務内容は貴官の経験から技術的な考察を述べることである。任期は数日間、任地は空軍府中基地にて通達される。六月一四日正午をもって任務開始となるので時間に府中基地、情報一課 剣崎義晴少尉のもとまで出頭すること。以上」
正午。
これは前日に出ないと間に合わないな。
しかもちょうど今は木型屋と細部を詰めてるので忙しいんだがな。
任務と言われれば仕方ない。
情報部と技術屋、産業スパイかなにかだろうか。

取り急ぎ今週中に来週一週間くらい空けても構わないように自分の仕事を追いこんで、親方に頼む内容を決めておこう。
これは徹夜になりそうだ。
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