空軍技術研究所

〜その1〜                                                


日記 皇紀2664年3月8日 相馬馬助

前の日記帳をうっかりゴミと一緒に焼いてしまったので新調する。
こうやって覚え書にしておかないと次に二度手間になることがあるからだ。
現在私の担当は2662年より正式に開発の開始された次期主力機の機体の改良だ。
おおまかに軍用機は機体、発動機、電装、兵装で構成される。
このうち機体は骨格、外板に分けられ、外板は今回の機体では金属板、炭素繊維、薄膜状電探がある。
私の担当しているのは外板の金属板部で、合金の素材の再検討と形状の最適化である。

平時ではあるが、なにしろいろいろキナ臭い。
開発速度は年中督促がくる有様なのだが、大事な同胞を急ごしらえの粗末なものには乗せたくない。
いろいろ頭を悩ませている。
それでも機体衆(よくこういう括りで呼ばれる)はまあまあの進捗度だ。
発動機衆は出力がなかなか得られず、日産から制式の発動機を貰ってバラしてみているというざまだ。
最近は本田技研が発動機衆に技術協力を始めて、違った局面になっているらしい。
一方機体衆でも炭素繊維と薄膜状電探についてはほぼ開発が完了している。
空軍では本計画に先立って先端技術研究機という名目で新技術の研究開発を行っており、その際に優先的に炭素繊維、薄膜状電探、墳射方向制御板、電探浸透塗装が研究された。

発動機衆の苦労は思いやられるが機体衆も安穏とはしていられない。
現在のジュラルミン合金はA7075というものでいわゆる超々ジュラルミンと言われるものだ。
これらで機体を構成し、完成されるであろう発動機を搭載すると問題が残る。
開発する機体は多目的戦闘機であり、簡単な変更のみで陸上機、艦載機、攻撃機を兼用する。
短距離で離発着を可能とし、大容量の兵装を搭載可能で、格闘戦でも新鋭制空戦闘機にヒケを取らず、また生存率も高いという夢のような戦闘機を開発しなければならない。
と、すると。
明らかに重量超過してしまうのだ。
軽量化のため材厚を下げると強度が下がる。
ハニカム構造板などいろいろ試作してみたが、まだ足りない。
もう新素材の開発しかないのだった。
これがまた材料屋を毎日呼んではあーでもないこーでもないという感じでなかなか進捗しない。

早々に配属になった試作機操縦士候補の折原は毎日暇そうだ。
件の研究機「真神」(まさがみ)を乗り回して訓練は欠かしていないようだが。
仕方がないので風洞試験(今は電算機で演算するのでほとんど使わない)をやらせたり、相澤親方の手伝いをさせたりしている。

さて今日は進展がありそうだったので記しておく。
日本軽金属の担当者がなにやら嬉しそうにやってきたのだ。
「少尉殿、希少金属をご存知ですか?」
ふざけるな。これでも金属屋だぞ。
「知っているがどうした」
「はい。合金も既知の希少金属は試してみたのですが、最近なにやら精錬中に新しいシロモノが出たようなんです」
「手に入れたのか?」
「まだなんですが、伝え聞くところによるとどうやら強度を出すのによさそうなんですわ」
「ほう。しかし希少金属の副産物となると量産機にはつかえんぞ」
「それはまた次の話です。まずは現物で試してそれから考えましょう」
「入手できたらひととおり見本を作ってくれ」
「わかりました。今日はそれだけお伝えしようと思いまして」
「ご苦労だったな。期待しているよ」

まだ見もしない新金属に希望を託してしまうのはなんとも頼りないが、なんでもいい。
使えるとなればなんでも使っててやるさ。
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